はりきゅう院 歩、院長の福家です。
認知症の方を支える家族や施設スタッフが、共通して悩まれる症状のひとつに「夕暮れ症候群(サンダウン症候群)」があります。夕方が近づくと、不安・焦燥感・落ち着かなさ・興奮・易怒性が強くなり、生活リズムが乱れてしまう状態です。
日中は比較的落ち着いていても、夕方になると突然不安が高まる。部屋をウロウロ歩き回る。同じ質問を何度も繰り返す。落ち着けず、表情に緊張が走る。こうした状況にスタッフや家族は強い負担を感じ、本人もつらさを抱えています。
訪問鍼灸は、この“夕暮れに高まる不安”へ静かに働きかけ、身体の緊張をほどき、自律神経の乱れを整えることで、症状をやわらげるサポートができます。この記事では、夕暮れ症候群の背景にあるメカニズムと、訪問鍼灸がどのように作用するのかを現場の視点から詳しくお伝えします。
夕暮れ症候群とは何か
夕方になると認知症の方に「不安・落ち着かなさ・興奮」が強く出る現象を指します。まるで“夕方という時間帯に心がざわつくスイッチが入る”ように、症状が重なることが特徴です。
・急に不安が高まる
・落ち着かず歩き回る
・焦りが出て同じ行動を繰り返す
・怒りっぽくなる
・家に帰らないといけないと言い出す
・表情が強ばり、呼吸が浅くなる
症状には波がありますが、「夕刻」という時間帯に強く出やすいため、日常生活リズムや介助にも大きな影響を与えます。
夕暮れ症候群が起こりやすい理由
夕方は、1日の疲れが蓄積し、身体も心も消耗しやすい時間です。そのうえ、認知症の方は「環境の変化」「明るさの変化」「人の動きの変化」を敏感に感じ取ります。
● 日中の疲労が一気に出る
● 認知機能の低下により、時間の認識が難しい
● 光の変化で不安が増す
● 身体の緊張が抜けず、自律神経が乱れやすい
● 夕方になるとスタッフの人数が変わる(環境の変動)
● 痛みや不快感が高まりやすい
こうした複数の要因が重なることで、本人にとって「夕方」という時間帯は、身体的にも精神的にも負担の多いタイミングとなります。
訪問鍼灸が夕暮れ症候群に向いている理由
夕方に高まる不安・興奮は、身体の緊張や自律神経の乱れが深く関わっています。鍼灸は筋緊張をゆるめ、自律神経を穏やかに整えるアプローチに優れているため、夕暮れ症候群との相性が非常に良い施術です。
● 首肩・胸まわりの緊張をゆるめて呼吸を深める
不安が強い方の多くは、胸郭が硬く、呼吸が浅くなっています。胸・首・肩まわりの深層への鍼は、呼吸を広げ、身体の“構え”をゆるめ、安心感を生みます。
● 副交感神経を働かせて、心の高ぶりを鎮める
鍼の刺激は、迷走神経を介して副交感神経を優位にし、全身の緊張を静かに落ち着かせます。施術中にふっと表情がゆるむ瞬間は、自律神経が切り替わったサインです。
● 足の冷えを改善し、不安感を軽減する
夕方の不安が強い方には足の冷えが多く見られます。足部への鍼灸は血流を改善し、全身の温かさを取り戻すため、不安の波が落ち着きやすくなります。
● 身体のこわばりを取ることで、過剰な興奮を抑える
身体がガチッと固まっていると、小さな刺激でも不安が増幅されます。鍼灸で筋緊張を和らげると、刺激への過敏反応が弱まり、表情や動作にゆとりが生まれます。
【実例①】夕方になると必ず「帰らなきゃ」と言っていた女性 住吉区在住80代女性
住吉区サービス付き高齢者住宅の80代女性。夕方になると、「家に帰らないと」「母が心配している」といった不安が強く出て、スタッフの声かけが入らない状態でした。
首肩・胸部の緊張が強く、呼吸が浅かったため、胸郭周囲の鍼と腹部調整を中心に施術。施術後、深い呼吸が入り、表情に柔らかさが戻ると、夕方の不安の頻度が徐々に減少。スタッフから「対応がとても楽になりました」と声をいただきました。
【実例②】同じ言葉を繰り返し、部屋を歩き回っていた男性 住吉区在住90代男性
住吉区在住の90代男性の方。夕方が近づくと、落ち着かず部屋を何度も往復する状態が続いていました。腰・背中・ふくらはぎに強い緊張があり、足の冷えも目立っていました。
鍼灸で下半身の緊張を取り、足の血流を改善すると、歩き回る時間が短くなり、夜の入眠もスムーズに。ご家族も「表情が穏やかになった」と変化を感じておられました。
【実例③】夕方になると表情が強ばり、会話がかみ合わなかった女性 住吉区在住70代女性
夕方の時間帯に限って混乱が強まり、話がまとまりにくくなる女性。腹部の緊張と胸の張りが目立ち、呼吸の浅さが不安感を助長していました。
胸部・腹部の鍼で呼吸が深まると、施術後は表情が落ち着き、「気持ちがラク」とご本人が話されるほどに安定。スタッフからは「夜のケアがしやすくなった」と報告がありました。
夕暮れ症候群は“本人の問題”ではなく、心身の混乱が起こす反応
夕方の不安や混乱は、本人の意思や性格とは関係ありません。痛み、疲れ、環境、光、認知機能、自律神経――さまざまな要因が絡み合った結果として起こる自然な反応です。
訪問鍼灸は、その混乱を身体の深層から整え、落ち着きや安心感へつなげるアプローチです。
院長 福家の想い
夕暮れ症候群のケアは、身体だけでなく心への寄り添いが欠かせません。本人も周囲もつらさを抱える時間帯だからこそ、「ひとりで頑張らなくていい」と伝えられる医療でありたいと考えています。
鍼灸で筋緊張がゆるみ、呼吸が落ち着くと、表情がふっと柔らかくなる瞬間があります。その変化を積み重ねることで、夕方の不安は確実に小さくなっていきます。夕暮れの時間帯が穏やかに過ごせるようになることは、本人の生活の質だけでなく、家族やスタッフの心の負担を軽くし、日常を大きく変えていきます。
まとめ
夕暮れ症候群は、認知症の方にとって大きな負担となる症状ですが、適切なケアによって落ち着きを取り戻すことができます。訪問鍼灸は、自律神経を整え、呼吸を深め、身体の緊張を静かにゆるめることで、不安や興奮を軽減し、夕方の時間帯を穏やかに導くサポートです。
訪問鍼灸について詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。
訪問鍼灸について詳しくみる