はりきゅう院 歩 院長の福家です。
認知症の方への訪問鍼灸は、「身体を整える」だけでなく、「心を安定させる」ための医療でもあります。
日々変化する表情や言葉の奥にある不安、夜になると強くなる興奮や徘徊、眠れない夜──そのすべてに、身体からのサインがあります。
私は現場で、鍼灸が持つ“静かな力”が、認知症の方の穏やかな時間を取り戻す瞬間を何度も見てきました。
認知症と身体のつながり
認知症は脳の機能だけでなく、全身の循環や神経バランスにも影響を与えます。
血流が滞ると脳への酸素供給が減り、意欲の低下や不安感が強まることがあります。
また、筋肉が硬くなることで転倒リスクが高まり、痛みをうまく伝えられないこともあります。
身体の不調を“言葉にできない”状態こそ、鍼灸が最も力を発揮できる場面です。
訪問鍼灸ができること
訪問鍼灸では、痛みや緊張をやわらげることはもちろん、自律神経のバランスを整えることで心の安定を促します。
鍼は交感神経の興奮を鎮め、副交感神経を優位にする作用があります。
その結果、夜間の興奮や徘徊が減り、睡眠が深くなるケースも少なくありません。
また、血流が改善されることで便通や食欲が整い、日中の活動量も増えていきます。
実際、訪問鍼灸を継続して受けている施設入居者の方では、表情が穏やかになり、スタッフとの会話が増えるなどの変化も見られます。
言葉ではなく、身体を通して心を落ち着かせる──それが鍼灸の役割です。
現場での実例
大阪市住吉区の高齢者施設に入居する80代の女性。
夕方になると不安が強まり、何度も同じ質問を繰り返す「夕暮れ症候群」の症状がありました。
週2回の訪問鍼灸を続ける中で、施術後には表情がやわらぎ、「今日は気持ちが落ち着く」と穏やかな笑顔を見せるようになりました。
その後、夜間の覚醒回数も減り、睡眠の質が安定。スタッフからも「介助がしやすくなった」との声が届いています。
別の施設では、90代の男性が「体が温かくなった」と話された翌日、普段より長く会話を楽しむ姿が見られました。
身体の巡りが整うと、気持ちにも光が差し込みます。これは薬では生み出せない、自然な回復のかたちです。
家族や施設スタッフとの連携
認知症ケアにおいて最も重要なのは、“支える人の安心”です。
私は訪問のたびに、家族やスタッフと必ず情報を共有します。
前回よりも動きやすくなったか、表情に変化があるか、夜の様子はどうか──小さな変化を一緒に確認することが信頼につながります。
その積み重ねが、ご本人だけでなく周囲の心の安定にもつながっていくのです。
院長 福家の想い
認知症の方の施術を行うとき、私は“身体の記憶”を大切にしています。
言葉では通じなくても、皮膚や筋肉には感覚が残っています。
手を添えると、その人の呼吸が少しずつ落ち着いていく瞬間がある。
その静かな反応を感じ取れることが、鍼灸師としての喜びです。
痛みや不安をやわらげ、少しでも穏やかに過ごせる時間を増やしたい──それが、私が訪問鍼灸を続ける理由です。
まとめ
訪問鍼灸は、認知症の方の身体だけでなく、心にも働きかける医療です。
痛みの軽減、血流の改善、睡眠の質の向上、そして心の安定。
小さな変化の積み重ねが、その人らしい穏やかな日常を取り戻していきます。
これからも私は、言葉よりも深い“身体の声”に耳を傾けながら、一人ひとりの時間に寄り添い続けたいと思います。
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